折角,裁判をして勝訴判決を取得しても,相手方の財産の所在が分からず泣き寝入り・・・
離婚調停や公正証書で養育費の取り決めをしたのに,養育費が支払われず,勤務先も分からない・・・
弊所にもこういった相談が多数寄せられていました。
こういった悩みを解決するため,法律(民事執行法)の改正が行われました。
具体的には,昨年(令和元年)5月18日に改正民事執行法が公布され,ついに,来月4月1日に改正法が一部を除き施行されることになりました。
以下,改正の内容について,簡単に紹介したいと思います。
第1 財産開示制度の見直し
① 申立権者の拡大
財産開示制度というのは,債務者に自分が持っている財産を開示させるための手続で,いわば,債務者の財産に対する強制執行を行うための準備のための手続です。
ただ,これまではあまり利用されていませんでした。
そこで,今回,財産開示制度について,2点の改正が行われました。
その一つが,申立権者の拡大です。
これまで,財産開示手続を申し立てることができるのが,確定判決等を取得した者だけでした。
今回の法改正で,申立権者に,仮執行宣言付判決,執行認諾文言の付された公正証書,金銭の支払いを命ずる仮処分命令を取得した者が追加されました。
公正証書が追加されたのは非常に大きいです。
訴訟をすることなく,速やかに,財産開示申立てができるので,回収可能性が高まると言えます。
② 刑罰の導入
また,財産開示手続において出頭せず,又は虚偽の陳述をした場合の制裁についても,改正されました。
具体的には,これまでは,30万円以下の過料でした。
改正によって,罰則が強化され,刑事罰(6カ月以下の懲役又は50万円以下の罰金)が科されることになりました。
懲役刑が追加されたことで,債務者に対する心理的影響は少なくなく,財産開示手続の実効性が高まることが期待できます。
第2 第三者からの情報取得手続の新設
財産開示手続は,債務者本人から情報を取得する手続でした。
それが,今回の法改正によって,債務者以外の第三者から債務者の財産に関する情報を取得することができるようになりました。
これは非常に大きい!
以下,財産毎に,具体的に紹介します。
1 預貯金債権等の情報取得手続
まずは,預貯金債権等の情報取得手続です。
具体的には,預貯金債権,上場株式,国債等の情報をそれらを保有している民間機関から取得することができます。
債務者がどこの銀行に口座を持っているか分からないという場合でも,この手続を利用すれば,銀行口座を発見することが可能となります。
ただし,どの銀行に情報開示を依頼するかは,債権者が特定する必要があります。
そのため,どの銀行に口座があるか見当もつかないという場合には,都市銀行,地方銀行,信金,信組など多数ある金融機関すべてに開示依頼をする必要があります。
複数の金融機関に開示依頼する場合には,裁判所に収める予納金額が増えることになります。
具体的には,金融機関1件であれば5000円の予納金で済みますが,2件目以降は1件当たり4000円の費用が掛かることになります。10件で4万1000円になります。
この金額が高いか安いかは評価が分かれますが,この金額で債務者の財産が見つかるのであれば,安いと思います。
この預金債権等の情報取得手続の最大の利点は,高度の密行性がある点です。
1ないし3のいずれの申立てについても,第三者から申立人に情報提供された場合には,裁判所から債務者に対し,情報提供がなされた旨の通知(情報提供通知)がなされるのですが,通知されるのは,(最後の第三者からの)情報提供書が提出された日から1カ月以上経過後とされています。
これだけの期間が空いていれば,債権者としては,情報取得後,債務者が気付かない内に,取得した情報に基づいて債務者の預金債権などに対して強制執行を行うことができます。
なお,情報提供通知は,以下の「2 給与債権の情報取得手続」と「3 不動産の情報取得手続」に関しても,同様の取扱いがなされていますが,これら手続については,当該手続の前に,第1で紹介した財産開示手続を行う必要がありますので,密行性は期待できません。
2 給与債権の情報取得手続
次に,給与債権の情報取得手続です。
この手続は,給与の支払元を調べる,つまり,債務者の勤務先を突き止めて,給与を差し押さえるために使います。
ただ,勤務先の情報は預金口座の情報以上に機密性が高いと言えます。
そのため,預金債権等の情報取得にはない,様々な制限が課せられています。
具体的には,まず,この申立てができる債権者が限定されています。
預金債権等の情報取得手続は,金銭債権を有していれば誰でもできたのですが,この手続を申立できるのは,養育費等の債権や,生命身体の侵害による損害賠償請求権を有する者に限られます。
ここに,養育費等の債権が入ってるんです!
調停や公正証書で養育費の支払いが決まったのに,支払ってもらえないと泣き寝入りしていた親権者にとっては朗報と言えます。
また,この申立てをするには,最初に紹介した,財産開示手続を先に行う必要があります。
財産開示手続を先行すると,債務者に知られずに差押えということはできなくなりますが,勤務先を変更するのは債務者にとってもハードルが高いと言えるので,それほど大きな影響はないように思います。
あと,制限ではないのですが,この手続でも,情報提供を求める相手方を債権者が特定する必要があります。
相手方としては,市町村,日本年金機構等の厚生年金保険の実施機関等が想定されています。
債務者がどこに住んでいるか分からない,勤務先の都合で債務者が厚生年金保険に加入していない場合には,この手続でも勤務先を特定することは難しいといえます。
3 不動産に関する情報取得手続
最後に,不動産に関する情報取得手続です。
この手続は,他の2つと異なり,4月1日の施行ではなく,施行日はまだ先で,現時点でその具体的時期は未定となっています。
そのため,実務の運用についてはまだ公表されていません。
概要をお伝えすると,まず,申立権者は,1の預金債権等の情報取得手続と同様に金銭債権を有する債権者全般です。
また,給与債権の情報取得手続と同様に,財産開示手続を先に行う必要があります。
これらの手続により,養育費等の不払いや,債権回収の不奏功により泣き寝入りしていた債権者の救済が図られることになるでしょう。
多面,債務者にとっては,非常に厳しい内容の法改正であり,真摯に向き合うことが求められそうです。
なお,これら手続をお考えの方は,弁護士に相談されることを強くお勧めします。