別居中は,収入の多い方が,収入の少ない方に対して,婚姻費用を支払う義務があります。
これを婚姻費用分担義務と言います。
婚姻費用については,これまで平成15年に裁判所が公表した算定表が用いられていましたが,今回,この算定表が改訂されました。
業界では,「新算定表」と呼ばれています。
最高裁判所のホームページに掲載されているので,誰でも見ることができます。
通常は算定表に双方の年収を当てはめれば,大体の婚姻費用の額が分かるのですが,算定表に掲載されていない家族構成の場合には算定表が使えません。
そこで,今回は,新算定表の考え方を元にして,具体的に婚姻費用の額をどのように算出するのかについて,紹介したいと思います。
婚姻費用の額を算出するには,以下の3つの段階を経ます。
①基礎収入の算定,②権利者に配分されるべき額の算定,③義務者が支払う金額の算定
順に算定方法を解説します。
1 双方の基礎収入の算定
ここでは給与所得者を前提とします。
給与所得者の場合には,総支給額に,対応する以下の割合(基礎収入割合)を乗じた金額が基礎収入となります。
総支給額なので,手取り額とは異なります。
源泉徴収票の左上の金額です。
0~75万円・・・・・・・・54%
75万~100万円・・・・・50%
100~125万円・・・・・46%
125~175万円・・・・・44%
175~275万円・・・・・43%
275~525万円・・・・・42%
525~725万円・・・・・41%
725~1325万円・・・・40%
1325~1475万円・・・39%
1475~2000万円・・・38%
2000万円~・・・・・・・具体的事情に応じて算出
例えば,総支給額が600万円の人は,基礎収入割合が41%になるので,基礎収入は246万円になります。
以上のような算定方法で,まずは,当事者双方の基礎収入を算定します。
2 権利者に配分されるべき額の算定
次に,権利者(婚姻費用を受け取るべき人)に配分されるべき額を算定します。
具体的には,生活費指数というものを用います。
夫婦の生活費指数を100とした場合,子どもの生活費指数は,以下のようになります。
14歳以下の子どもの生活費指数:62
15歳以上のどもの生活費指数:85
そして,子の生活費指数を用いて,以下の算定式を用いて,権利者に配分される額を決定します。
(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)×(100+62×14歳以下の子どもの人数+85×15歳以上の子どもの人数)÷(100×2+62×14歳以下の子どもの人数+85×15歳以上の子どもの人数)
この計算式を用いれば,算定表には載っていない家族構成の場合,例えば,子どもが4人以上の場合にも婚姻費用の額を算定できます。
3 義務者が支払う額の算定
最後に,義務者が支払う額を算定します。
具体的には,以下の算定式を用います。
義務者が支払う金額=権利者に配分されるべき金額-権利者の基礎収入
そして,上記算定式で算出された額は年額なので,これを12で割ると,一月当たりの婚姻費用の額が算定できます。
4 養育費の場合
養育費の場合もほぼ同じですが,配偶者に対する扶養分を考慮する必要がなくなるので,少し算定方法が変わります。
具体的には,①基礎収入の算定,②子どもの生活費の算定,③義務者が負担する額の算定の3つの段階を経て算定します。
まず,①基礎収入の算定は,婚姻費用と同じですので割愛します。
次に,②子どもの生活費は,①で算定した基礎収入,婚姻費用の算定で用いた子どもの生活費指数を用いて算定します。
具体的には,以下の算定式を用います。
義務者の基礎収入×(62×14歳以下の子どもの人数+85×15歳以上の子どもの人数)÷(100+62×14歳以下の子どもの人数+85×15歳以上の子どもの人数)
最後に,③義務者が負担する額を算定します。
具体的には,以下の算定式を用います。
子どもの生活費×義務者の基礎収入÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)
そして,上記算定式で算出された額は年額なので,これを12で割ると,一月当たりの養育費の額が算定できます。
なお,子ども間の年齢が大きく離れている場合には,子ども毎に養育費を算定する必要があります。
具体的には,以下の算定式を用います。
子ども全員の養育費の月額×算定したい子の生活費指数÷(子ども全員の生活費指数)
以上,新算定表に基づく婚姻費用・養育費の算定方法についてご紹介しました。
お子さんが私立学校に通っている場合,当事者のいずれか又は双方が自営業の場合,認知した子がいる場合などは,異なる計算が必要になります。
お困りの場合には,一度ご相談ください。