企業における労災リスク③ ~よくある勘違い~

労災事故が起こった場合の損害賠償義務がどれほど大きいか,前回の投稿で感じていただいたと思います。

ここでは,労災に絡んで,よくある勘違いをいくつかご紹介したいと思います。

 

勘違い1:うちの会社は,サービス業で怪我をするような危険な仕事はないから,労災について心配しなくてもよい

 

間違いです!

建設業,製造業の会社等,業務そのものに危険が伴うような業種はもちろん,運送業やサービス業などの業種でも,長時間労働等を防止して労働者に身体的・精神的な負担がかからないように配慮しなければなりません。

安全配慮義務に違反して,従業員が疾患にかかり,またそれにより死亡するに至った場合(自殺を含みます)には,労災の問題になります。

 

勘違い2:うちの会社は,社員はおらず,全て外注・請負だから,労災について心配しなくよい。

 

これも間違いです!!

会社と被災労働者との間に使用従属関係があれば,当該被災労働者との契約形態に関係なく,賠償義務を負います。

使用従属関係の有無は,指揮命令の有無や報酬の労務対償性など,様々な事情の総合考慮によって判断され,判断が難しく,裁判で争われるケースもります。

そのため,全て外注扱いだからと軽信することは禁物です。

なお,派遣労働者については,直接指揮命令するのは派遣先企業であるので,派遣先企業は派遣労働者に対して当然賠償義務を負います

その他,試用期間,入社前後の研修期間,インターンなども同様です。

建設現場の元請と下請(孫請)との関係にも使用従属関係があれば,元請に責任が生じます。

 

勘違い3:うちの会社は,社員との関係が良好だから,仮に労災が起こっても弁護士を雇って裁判するようなことは考えられないから,心配しなくてよい。

 

これも間違いです!!!

社員との関係が良好でも家族や遺族は黙っていません。

また,最近,労働者側に立って労災事故を扱う法律事務所が増えてきており,今後,労災事故が発生した場合に労働者が賠償請求を行う機会は増えると思われます。

さらに,労働者が弁護士を立てて交渉を迫ってきた場合には,心理的な負担はもちろん,会社側も弁護士を立てて交渉しなければならず,安くない弁護士費用が発生します。

 

勘違い4:労災事故が起こったとしても,会社が責任を問われるだけで,役員個人は責任を問われないから大丈夫。

 

実はこれも間違いです!!!!

中小零細企業の場合,代表者や役員等が,被災労働者の就労実態や安全管理体制の実情について直接管理ないし把握して知っていたり,代表者本人が現場で安全管理を行っている場合が多いいです。

そのため,このような場合には,役員個人も責任を問われることになります。

そして,親族を取締役に選任している会社も多いと思いますが,名ばかりの取締役であっても,会社法上,監督責任があるので責任を問われる場合もあります。

リスクヘッジとしては,役員賠償責任保険への加入が考えられます。

 

最後にお伝えしたいこと

 

労災事故は,被災労働者やその家族はもちろん,会社にとっても経営基盤を大きく揺るがす事態です。

経営者としては,日々,安全管理,健康管理を徹底し,労災事故の発生を未然に防ぐ努力をしなければなりません。

ただ,労災事故が起きてしまうことはあります。

 

そんなときに備えて,使用者賠償責任保険に(場合によっては役員賠償責任保険にも),加入しておくことをお勧めします。

労災保険で賄えない損害について保険でカバーすることができ,弁護士費用も保険で賄うことできます。

そして,保険に加入しておくことは,会社を守るだけでなく,被災労働者やその家族の残された人生を守ることにもつながります。

 

また,労災事故が起きてしまった時は,絶対に,一人で抱え,一人で対応しないでください。

日常業務に加えて,被災労働者への対応,労基署への対応,労災保険の手続,賠償交渉などが一度にやってきます。

中小企業において労災事故が発生した場合には,直ちに弁護士に相談すべきです。

当事務所も,企業側,労働者側の双方で労災事故を多数扱っておりますので,何かあればご相談ください。

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