企業における労災リスク② ~損害賠償義務~

第1 労災保険に入ってるから安心???

 

例えば,工場で作業中に機械に巻き込まれて怪我をしたとします。

 

労災保険法上の労働災害に該当するので,労災保険の適用を受けます。

 

なお,労働災害には,通勤災害と業務災害があります。

業務災害に該当するためには,①業務遂行性と②業務起因性が必要とされます。

業務遂行性とは,労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態であったことをいい,

業務起因性とは,業務が原因となって傷病等が発生したことをいいます。

 

労災保険の適用を受ける場合,被災労働者は,労基署に労災申請することで,労災保険(通称;政府労災)から,以下のような補償を受けることができます。

この補償は,会社に責任があるか否かに関わりなく支給されます。

 

① 療養補償給付      

 診察、薬剤・治療材料の支給,処置・手術その他の治療,看護などの療養の給付が支給されます。

② 休業補償給付      

 療養中の休業4日目から給付基礎日額の60%(+特別支給分20%)が支給されます。

③ 障害補償給付      

 後遺障害が残った場合,一定額の年金または一時金が支給されます。

④ 遺族補償給付      

 労災により労働者が死亡した場合,遺族には遺族補償年金が支給されます。

⑤ その他

 他にも,葬祭料,傷病補償給付,介護補償給付などが支払われます。

 

労働災害について,「会社に責任がある場合」には,会社は被災労働者が被った全ての損害を賠償する義務が生じます。

労災保険によって補償される部分については支払不要ですが,労災保険によって補償されない部分」については,会社が自ら賠償金を支払う必要があります。

 

第2 労災保険によっては補償されない損害

 

「労災保険によっては補償されない部分」としては,以下のようなものがあります。

 

① 慰謝料

 入通院慰謝料,後遺障害慰謝料,死亡慰謝料などがあります。

 慰謝料は労災保険では一切補償されません。

 ちなみに,死亡慰謝料は,2000万円から3000万円となります。この全額を会社が負担することになります。

 

② 逸失利益(事故に遭わなければ得られた収入)

 算定式は,基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数,です。

 例えば,被災労働者が,「40歳の男性,年収680万円,被扶養者は妻と子2人の計3人」の場合には,7000万円弱の賠償金となります。

 このうち,1300万円ほどは労災保険でカバーできますが,その余は会社が負担することになります。

 なお,今回の民法改正で法定利息が5%から3%となるため,上記算定式のライプニッツ係数が増えることが決まっています。

 2020年4月1日以降の労災事故に適用されますが,金額にして数百万円賠償額が増額される見込みです。

 

③ 休業損害

 労災保険でカバーされるのは,平均賃金の60%相当分だけです(具体的には,給付基礎日額の60%×休業日数分)。

 残りの40%相当分は,会社が負担することになります。

 なお,被災労働者は,60%相当分に加えて,休業特別支給金という名目で給付基礎日額の20%の支給を受けられるため,これを加算すると80%の収入が確保されますが,この20%相当分は,会社の賠償金額の算定に当たっては考慮されません。

 

第3 まとめ

会社の責任によって労働災害が発生した場合,被災労働者が被った損害のうち,一部は労災保険で賄えますが,大部分は,会社が自ら賠償する必要があります。

そして,死亡事故や重大な後遺障害が残るケースでは,少なくとも数百万円,多い場合には数千万円から億単位の損害賠償義務を課せられることもあります。

この労災リスクに,どのように対応するか,考えておく必要があります。

事前の対策としては,任意労災(使用者賠償責任保険)に加入しておく方法があります。

そして,事後の対策としては,弁護士に早期に相談することです。

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