1) 内容証明郵便による督促
内容証明郵便とは、「いつ」「どのような内容を」「誰から」「誰のところへ」送られたのかということを、郵便局が明らかにしてくれる制度です。
いつ相手方に到達したのか、どのような内容を相手方に伝えたのか、全ての事実について証拠が残るので、後に裁判になっときには、強力な武器となります。
また、内容証明郵便に強制力はありませんが、内容証明郵便という正式な書類を送ることで、相手に心理的なプレッシャーを与えることが出来ます。
そして重要なのは、内容証明郵便を送る際は、弁護士に依頼し、弁護士の名前で送るということです。
皆様がご自身で内容証明を送ることも可能ですが、ご自身の思いを単なる手紙のように書くだけでは、あまり意味がありません。
皆様の言い分を整理し、法的に意味のある文章を書いて送ることで、初めて相手に心理的なプレッシャーを与えることができます。
そして、皆様の思いを法的に意味のある文章に再構築するのは、弁護士の仕事です。
このように、弁護士に文章の作成を依頼し、かつ、弁護士の名前入りで内容証明を送付することで、内容証明郵便は真の効力を発揮します。
実際、弁護士の名前入りで内容証明郵便を送ると、すぐに相手が支払いに応じるというケースも少なくありませんので、有効な手段といえます。
2) 民事保全手続を行う
内容証明郵便を送付しても相手方が支払いに応じない場合や、始めから相手方の支払いが期待できない場合には、訴訟を提起する必要があります。
ただ、訴訟には、何カ月もかかることがあります。その間に、相手が財産を隠してしまうかもしれません。また、相手が他の債権者に優先的に返済したり、事業の運転資金に充てるなどして、財産を減少させてしまうかもしれません。
あなたが数ヶ月掛かってようやく勝訴したときには、もう相手の手元には何も財産が残っていないということも、あり得ます。
このように、訴訟による解決を待っていたのでは相手の財産が散逸してしまい、将来、勝訴判決を得ても強制執行による満足が得られなくなるおそれがある場合には、民事保全手続を行う必要があります。
民事保全手続の中でよく使われるのは、債権に対する仮差押えと不動産に対する仮差押えです。
債権に対する仮差押えであれば、相手が第三者に対して持っている債権(例えば、銀行に対する預金債権、別の業者に対する売掛債権など)を仮に差し押さえることになり、不動産に対する仮差押えでは、相手が所有している相手名義の不動産を仮に差し押さえることになります。
「差し押さえる」ことで、相手は、第三者から自由に債権を回収したり、別の第三者に譲渡したり、担保に入れたりすることができなくなります。また、「仮に」の意味ですが、これは、差し押さえたとしても、直ちに、あなたがこれら差押対象財産から債権を回収できるのではなく、その後の訴訟手続において勝訴判決を得る必要があるということを意味します。
このように、相手の交渉態度等から、相手の財産が散逸する可能性が高い場合には、速やかに民事保全手続を行い、財産の散逸を防止することが重要になります。
3) 訴訟を提起する
相手が任意の交渉に応じなければ、訴訟を提起します。
訴訟を提起するには、裁判所に訴状と証拠を提出する必要があります。訴状はあなたの言い分を記載した書面であり、証拠はその言い分を裏付ける資料です。
訴訟で勝訴するためにはどちらも重要ですが、どのような主張をすれば訴訟を有利に進めることができるか、どのような証拠を提出するのがよいか、その証拠はどのようにして集めるか等、訴訟を進めるには専門的な知識と経験が必要になります。
なお、訴訟では、訴えた側(原告)と訴えられた側(被告)が交互に主張立証を行いますが、その頻度は、1ヶ月に1回です。このやり取りを複数回行います。
そして、双方の主張立証が尽くされた段階で、多くの場合、和解協議が行われます。この際には、裁判官が現時点の主張立証からするとどのような判決を書くことになるのか、いわゆる心証を開示してくれます。
和解協議が決裂すると、必要に応じて、さらなる主張立証(主として証人尋問手続)が行われ、最後に裁判所が判決を下します。不服があれば、上級審に控訴することが出来ます。
早期に和解が成立する事案は稀で、一旦訴訟が始まると、判決や和解により訴訟が終了するまで、少なくとも半年程度は掛かります。
このように、訴訟には時間がかかります。資金繰りに余裕がある企業であれば別ですが、そうでなければ、訴訟は最終手段と考えるのがベターです。
だからこそ、事前に、弁護士によるリーガルチェックを受けることで、紛争の発生を予防することが大切なのです。
また、紛争が発生した場合には、可及的速やかに弁護士に相談し、時には、民事保全手続を用いるなどして、できる限り交渉段階で問題を解決することが重要になります。
4)強制執行をする
訴訟で勝訴判決が下され、その判決が確定しても、相手が支払いに応じないことがあります。
その場合には、判決に基づいて、強制的に相手の財産から債権を回収することになります。
この手続を強制執行手続といいます。
差押対象財産としては、不動産のほか、銀行に対する預金債権、別の業者に対する売掛債権があり、個人の債務者であれば就業先に対する給与債権などもあります。
なお、これまでは、債務者の預金債権を差し押さえる場合、預金されている銀行名と支店名が必要とされてきました。
しかし、この流れは大きく変わりつつあります。
せっかく勝訴判決を得ても、相手が財産を隠しているために債権を回収できないのでは、訴訟制度の意義が失われてしまいます。
そこで、最近では、支店名が分からない場合でも、様々な方法で銀行預金の差し押さえが可能になっており、近いうちに立法解決がなされるとの報道もあります。諦めずにご相談ください。
5) その他の手段
以上のほかにも、支払督促や、少額訴訟、民事調停といった紛争解決手段もありますので、簡単にご紹介します。
支払督促とは、裁判所を通して相手に支払督促を送付し、相手が2週間以内に異議を申し立てなければ、強制執行を行うことができるという制度です。書類審査のみで終了するため、非常に迅速な手続きといえます。ただ、相手が異議を出した場合は、支払督促の効力は失われてしまいます。
また、少額訴訟とは、債権が60万円以下の場合に、原則として1回の審理で終了する裁判です。支払督促と同様、迅速な手続といえますが、少額訴訟の判決に相手が異議を出した場合には、通常の裁判に移行してしまいます。
最後に、民事調停とは、裁判所が判決を出すのではなく、調停委員の仲裁の下、当事者が互いに歩み寄って、当事者の合意によって紛争を解決する手続です。
事案に応じて、これらの紛争解決手段を用いることが適切な場合もありますので、ぜひご相談ください。