交通事故における3つの損害賠償基準

1) 交通事故における損害賠償の仕組み

① 賠償金を支払うのは保険会社

 まず前提として、交通事故に遭遇した場合の損害賠償の仕組みについて説明したいと思います。

 あなたが交通事故に遭遇した場合、あなたが被った損害について賠償する法的責任を負うのは、加害車両の運転者です。また、当該車両の所有者と運転者が異なる場合には、車両の所有者も賠償責任を負う場合があります(自動車損害賠償法の運行供用者責任、民法の使用者責任や監督者責任など)。

 では、誰があなたに対して賠償金を支払うのか。

 それは、加害者本人ではなく、加害者が加入している保険の保険会社であることが大半です。

 

② 保険の種類

 自動車の所有者は、車を使用するに当たり、事故により他人の生命又は身体に危害を加えた場合に備えて、自動車損害賠償責任保険又は共済(通称、自賠責保険)に加入することが法律上義務付けられています。

 ただ、自賠責保険でカバーされているのは、被害者が被った全損害のうち人身損害に限られ、しかも人身損害の一部しかカバーされていません。車両損害などの物的損害(通称、物損)はそもそも自賠責保険の対象になりません。

 そこで、自動車の所有者の多くは、自賠責保険に加えて、任意保険というものに加入します。いわゆる自動車保険です。

 任意保険に加入することで、自賠責保険ではカバーされない範囲の人身損害や物損についてもカバーされます。任意保険に加入していない場合には自賠責保険でカバーされない部分の損害を、また、自賠責保険にすら加入していない場合には、被害者の被った損害の全部を、自動車の運転者(場合によっては所有者)が自ら負担することになります。

 また、「賠償」という観点とは異なりますが、被害者自身が人身傷害補償保険や搭乗者傷害保険、車両保険、無保険車傷害保険などに加入している場合には、当該保険会社が、被害者の被った損害の一部を「補償」してくれます。加害車両が無保険車である場合等には、自賠法上の政府補償事業も利用できます。

 

③ 交渉相手は任意保険会社

 以上のように、交通事故が起こった場合に、あなたに対して賠償責任を負うのは運転者(場合によっては所有者)ですが、実際に、あなたに対して損害を賠償するのは、加害者の保険会社なのです。

 そのため、事故後、加害者の保険会社は、あなたに対して、頻繁に接触してきます。なお、自賠責保険の保険会社は法律上定められた範囲の損害を支払えば足りるので、被害者と交渉する必要がありません。つまり、あなたに接触してくるのは、専ら、加害者の任意保険会社です。

 加害者自身も、任意保険会社から被害者への接触を事実上禁止されるため、見舞いや謝罪に訪れることができません。

 

2) 交通事故における3つの損害賠償基準

① 任意保険会社のスタンス

 そして、任意保険会社は、あなたに接触する時、多くの場合、一つのことしか頭にありません。それは、あなたに支払う賠償金を可能な限り抑えるということです。

 あなたに支払う賠償金が増えれば増えるほど会社の利益が減り、担当者も自身の査定に響きますので、あの手この手で賠償金を抑えようとします。

 一方的に治療費の支払いを打ち切って治療を終了するよう迫り、また時には、事故におけるあなたの落ち度を過度に評価し、あたかもあなたが加害者であるかのように接してくることもあります。

 後遺障害の等級認定制度についても、説明がない場合があります。

 そして、あなたが弁護士に依頼することについて「意味がないので止めるべき」と誤った助言をすることさえあります。

 このように任意保険会社は、賠償額を抑えるために様々な手段を講じてくるので常に注意が必要なのですが、最も注意しなければならないのは、最終的に賠償額(示談金額)を決定するときです。

 すなわち、任意保険会社は、あなたの治療が終了した時点で、あなたに支払うべき賠償金を算定し、金額を提示してきますが、ここで最初に提示される金額は、本来あなたが受け取ることが出来る適正な賠償額を、大きく下回る金額なのです。

 

② 3つの損害賠償基準

 ここで、3つの損害賠償基準について説明します。賠償額を算定するにあたっては、いくつか算定基準があります。自賠責基準、任意保険基準、そして、裁判基準があります。

 まず、自賠責基準は、自賠責保険の強制加入を定めた法律が、被害者に対する最低限の賠償を確保するために定めた基準であり、3つの基準の中で最も賠償額が低いといえます。

 任意保険基準は、各保険会社が独自に定めた基準であり、外部には公開されていません。

 そして、裁判基準は、これまでの判例の蓄積から導き出された基準であり、被害者の損害を補填するために最も適正な基準とされています。3つの基準の中で賠償額が最も高額になります。

 

③ 保険会社の提示額は絶対ではない

 任意保険会社ごと、担当者ごとに、交渉スタイルは異なりますが、多くの場合、最初に提示される金額は、以上の3つの基準のうち最も低い、「自賠責基準」に基づいて算定した賠償額です。

 自賠責基準内の支払いであれば、後から自賠責保険から返還を受けることができるため、任意保険会社は一切持ち出しがなく、会社として損失がないからです。

 しかし、保険会社が提示してきた金額は、あくまでも加害者側の都合による一つの提案にすぎず、応じる必要は全くありません。多くの被害者は、保険会社が提示してきた金額は絶対のものであり、交渉の余地がないと思っていますが、それは全くの誤解です。

 最初に提示された金額では、絶対に示談しないでくさい。

 

④ 弁護士に依頼し裁判基準に基づく賠償を勝ち取る

 では、どのような金額が提示された時に示談すれば良いのかというと、それは、裁判基準に基づく賠償額が提示されたときです。

 ただ、裁判基準で示談するためには弁護士への依頼が必須となります。被害者自身で交渉を続ければ、一定程度まで提示額は上昇するのですが、どこまで交渉しても裁判基準まで上がることはまずありません。保険会社の内規でそのように決まっているからです。

 このように、交通事故の損害賠償基準には3つの基準があること、任意保険会社は最も低い自賠責基準での示談を目標としていること、そして、裁判基準を勝ち取るには弁護士への依頼が必須であることを知っておいてください。

 

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