1) 遺言の作成をお薦めする理由
まず、遺言とは、自分が亡くなった後に、自分の財産を誰にどのように引き継いでもらいたいかを、残った方々に伝えるものです。また、遺言書がある場合には、遺言書の内容に応じて、相続人や受遺者があなたの財産を引き継ぎます。
他方、遺言書がない場合にどうなるかというと、遺言がない場合には、あなたの死後、相続人が全員で話し合い、相続人のうち、誰がどの財産を引き継ぐのかを決めなければなりません(いわゆる遺産分割協議)。
しかし、遺産の内容や相続人の特性など、様々な事情から、往々にして遺産分割協議は難航します。そして、協議が難航しそれが長期化すると、多くの場合、人間関係も破壊されてしまいます。
もし、今の時点で、将来の遺産分割協議が難航することが予想されるのであれば、遺言書を作成し、その火種を予め消しておくべきです。あなたの遺産の分配方法で、相続人同士が争い、互いに批判し合うようなことは、できれば避けたいところです。
また、遺産分割協議に入ることが出来るのは、相続人のみです。そのため、あなたが、相続人以外の大切な人に遺産を残したいのであれば、遺言の作成が必須になります。
2) 遺言書の作成をお勧めするケース
次に、特に、遺言書の作成をお勧めするケースを、いくつかご紹介させていただきます。
① 現金以外の財産が含まれている場合
相続財産に土地や建物などが含まれている場合は、平等に分割することが難しいため、相続人の間でトラブルとなることが珍しくありません。
例えば、遺産の中に、自宅の土地建物、収益性のある駐車場が含まれているとします。
この場合に、あなたの死後、相続人となった長男と次男が、いずれも自宅の取得を希望すると、どちらが自宅を取得するかという問題が生じます。
また、駐車場のような収益物件の場合には、その財産的評価についても意見が別れることが多いので、より一層、話し合いが紛糾することになります。
ここで、あなたが遺言書を作成し、「自宅は長男に、駐車場は次男に」というように、現金以外の財産の取得者を予め決めておけば、このような問題は回避できます。
もちろん、相続人間の話し合いに委ねるという考え方もありますが、相続人同士の仲が既に悪化しているような場合は、遺言書で取得者を決めておくのが良いといえます。
このように、あなたの遺産の中に、現金以外の財産が含まれている場合は、遺言を作成することをおすすめします。
② 特定の相続人に引き継いでもらいたい遺産がある場合
法律では、相続人が引き継ぐ割合(いわゆる相続分)が決まっています。しかし、具体的に誰が何を引き継ぐのかは、法律に定めがありません。
例えば、「妻と子どもで2分の1ずつ相続する」というように、機械的な数字は決まっていますが、建物がある場合は建物を半分ずつ分けるのか、建物を売却してそのお金を半分ずつ分けるのか、具体的な方法は決まっていません。
もしあなたが、「住み慣れた建物は妻に残してあげたい」「商売を引き継いでくれた長男に商売道具や株式、会社で使っている不動産を引き継がせたい」など、特定の財産を特定の相続人に譲りたい場合は、遺言書の作成が必要です。
特に、あなたが会社の代表者である場合や、事業主である場合は、あなたの死後も円滑に事業を継続するためにも、必ず遺言書を作成してください。
例えば、あなたの長男が、あなたの事業を引き継ぐとします。そして、長男が事業を継続するには、あなたが所有している不動産や機械類が必要不可欠とします。
この場合に、あなたが遺言書を作成することなく死亡した場合には、大変なことになります。
これら事業用財産以外にも、十分な預貯金等の金融資産が遺産の中にあればよいですが、もしそれら資産がなければ、長男はこれら財産を手放すか、あるいは、自分の預貯金から対価を支払わなければなりません。
あなたが法人の代表者で、法人の株式を保有している場合にも、同様の問題が置きます。
あなたが生前に何らの対策もせず、また、遺言も作成しなければ、あなたの株式が、新たな代表者である長男以外の法定相続人にも相続されてしまい、長男が円滑に意思決定することができなくなる可能性もあります。
このように、あなたが、会社の代表者である場合や事業主である場合は、必ず、遺言書を作成し、あなたが生きているうちに、できる限りの対策を講じるべきです。
③ 相続人以外の大切な方に遺産をお渡ししたい場合
遺言書が無い場合は、法律で定められた相続人(法定相続人)が遺産を引き継ぐことになります。
もしあなたが、親しいご友人や近隣の方々など、生前お世話になった特別な方に遺産をお渡ししたいとお考えの場合は、遺言書が必要です。
また、遺言書で法定相続人以外に遺産を渡すには、法定相続人が持つ「遺留分」について配慮しなければならず、この配慮を怠ると、あなたの死後、相続人との間で紛争になる可能性が高いといえます。
このように、相続人以外の大切な方に遺産を残したい場合には、遺言書の作成が必要不可欠ですし、遺留分に配慮した内容の遺言書を作成しなければなりません。
また、法定相続人にできる限り財産を相続させたくない場合や、遺産の大部分が事業用財産であり法定相続人に財産を相続させることが困難な場合など、遺留分を侵害するような遺言の作成が不可避といえる場合もあります。
このような場合には、遺言書の作成だけでは不十分で、あなたが存命中に死後の紛争を予防するために様々な対策を講じておく必要があります。
3) 遺言の作成方法と注意点
以上に述べたケースでは、必ず、遺言を作成すべきといえますが、どのようにして、遺言書を作成したら良いのでしょうか。
手紙を残しておけばそれでよいのでしょうか。誰かに伝えておけばよいのでしょうか。
ここで重要なのは、遺言書が、法律上の遺言として、法律上の有効とされるためには、法律が定めるルールに則って遺言書を作成する必要があるということです。
具体的には、遺言書には必ず記載しなければならない事柄もあるのですが、これら必要事項が記載されていないと、あなたの死後、その遺言が無効であると判断され、結局、相続人間の話し合いで決めなければならなくなるのです。
また、遺言には、自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言の3つの種類がありますが、当事務所は、ほとんどのお客様に公正証書遺言の作成をおすすめします。
それは、後に、遺言の有効性について紛争が発生する可能性が最も少ないからです。
他の遺言では、誰が作成したのか、いつ作成したのか、作成した時点で十分な判断能力があったのかなどについて、争いになる可能性があるためです。せっかく遺言を作成したのに、死後、紛争が起こっては何の意味もありません。
なお、当事務所は、同じビル内に、公証人役場(上六公証役場)がありますので、公正証書遺言を作成する場合には、よりスムーズに作成することが出来ます。
さらに、遺言書を作成する際に是非注意いただきたいのが、単に、有効な遺言書を作成するだけでは不十分だということです。
遺言の内容に十分注意を払い、そして、あなたが亡くなるまでに為すべきことをなさなければ、たとえ有効な遺言を作成したとしても、結局、あなたの死後に紛争が起こる可能性があるのです。
その顕著な例が、遺留分です。
例えば、あなたが、特定の相続人に全財産を相続させるという遺言を公正証書遺言によって作成したとします。
しかし、これでは、あなたの死後に相続人間で争いが起きます。単に感情的な争いにとどまらず、相続人に最低限保障された遺留分の支払いを巡って、法律上の争いが起きるのです。
また、遺留分に注意を払い、有効な遺言を作成したとしても、それでも不十分です。
詳細は、法律相談の際にご説明しますが、遺言作成後も注意しなければならない点があるということを知っておいてください。
4) 最後に
遺言書があれば、あなたの死後の相続人同士があなたの遺産を巡って争うことを防ぐことができます。
遺言を作成すべきケースに該当する場合には、是非、遺言書を作成してください。
ただ、遺言書をお一人で作成されることは、勧めできません。
インターネットで調べたり、ご友人に相談されたとしても不十分です。
これまで述べてきたように、遺言書の作成、そして、作成後の対応には、専門的な法律知識が必要となるのです。
あなたの遺志を確実に次の世代へ残すためには、事前に弁護士に相談して、遺言書の内容や作成方法について、アドバイスを受けることをおすすめします。
また、あなたが、将来、相続する立場になる可能性がある場合には、相続人間の紛争を未然に防ぐためにも、本人の判断能力が十分あるうちに弁護士に相談し、適切な遺言を作成することを、強くおすすめします。
遺言書の作成をご検討されている方は、当事務所までお気軽にご相談ください。