令和2年2月20日に,大阪国際会議場にて,「令和元年度中小企業再生支援セミナー」が開催されました。
このセミナーは,中小企業再生支援全国本部と中小機構が主催するセミナーで,10年以上前から毎年開催されています。
毎年参加させていただいておりますが,今年も,有意義なお話がありましたので,印象的な話をいくつか簡単にご紹介したいと思います。
第1 金融機関へのメッセージ
金融庁監督局の日下智晴氏の基調講演は印象的でした。
以下,いくつかポイントとなるお話を備忘録的に引用します。
・金融検査マニュアルにはリスクしか書いておらず,金融機関のビジネスについて何も書いていなかった。金融検査マニュアルを廃止するにあたり,4~5年かけて金融機関と対話を重ね,金融機関のビジネスモデルについて検討を重ねてきた。
・地域金融機関は,安定した収益と将来にわたる健全性を確保し,金融仲介機能を十分に発揮することによって,地域企業の生産性向上や地域経済の発展に寄与することが求められる。
・金融機関の経営陣に求めることは,経営理念の浸透のみ。地域金融機関の経営者は,確固たる経営理念を確立し,その実現に向けた経営戦略の策定とその着実な実行,PDCAの実践を図ることが重要。
・顧客起点。顧客の経営課題を聞いているか,顧客にフィードバックをしているか,顧客に納得感があるか。
・顧客起点で課題を解決するためには,金融機関だけでなく,金融庁も変わる必要。指示の連鎖から対話の連鎖へ。
・金融庁が,地域金融機関,自治体,大学研究機関などと連携しながら,一体となって地域課題を解決する仕組みを作る。地域経済エコシステムの推進。
・2つの規制緩和。①銀行等による議決権保有制限の見直し。事業再生にあたり,銀行が再生会社の株式を保有できる期間を5年から10年に延長。銀行が株式を持ち,再生会社の同じ船に乗る。10年保有を認めることで,再生会社の株式の値上がり益を期待でき,エクイティによるリターンが検討することができるようになる。
・②ジョブローテーションルールの廃止。行員の転勤を無くす。行員の転勤による情報の断絶は,企業から不満の大きかったところ。特定の支店に20年30年勤務する行員がいていい。それが行員にとってはもちろん,企業にとっても望ましい。
・経営者保証ガイドラインの浸透
第2 中小企業再生支援協議会に関連して
また,中小企業庁,及び再生支援協議会全国本部より,再生支援協議会の取り組みについてご紹介がありました。
同じく,ポイントとなる点をいくつかご紹介します。
・信金,信組における債務者区分では,要注意先以下の割合が22%あるが,そのうち,経営改善に取り組んでいない企業は92%に上り,より積極的な経営改善の支援が必要。
・再生支援協議会の利用を経営改善の取り組みの第一歩に。
・近時は,金融調整困難な案件(例えば租税滞納状態が多額にある案件)も取り扱っており,幅広い支援が可能。租税滞納案件における再生計画の例としては,金融機関からの借入による一括弁済,3年間の暫定リスケ期間中のキャッシュフローによる弁済,スポンサーからの売却代金による返済など。
・中小企業に対するシームレスな支援体制を構築できた。平時は「早期経営改善支援」,経営改善期は「経営改善支援」,再生期は「事業再生支援」,廃業期は「再チャレンジ支援」。
・再チャレンジ支援は,2018年に始まったところ。これまで,再生ではなく廃業期にある企業に対する支援を全く行っていなかった。
・いくつかの仮設。企業が廃業を望みながら決断できないまま市場に留まっている可能性。突然の破たんによる地域経済への悪影響。経営者の再度の企業や従業員の再就職の機会の阻害。企業資産の毀損。取引先の連鎖倒産や金融機関の財務状況への悪影響。
・廃業を企業の就活として前向きにとらえることも必要ではないか。
・いくつかの仮設を踏まえ,再生支援協議会としても,廃業支援に積極的に取り組んでいく意向。
・再生支援協議会としては,企業本人からの相談をもっと増やしたい。中小企業の駆け込み寺に!その上で,暫定リスケも有効に活用しながら再生支援を行い,事案に応じて,廃業支援としての再チャレンジ支援に積極的に取り組んでいく。特に,経営者保証ガイドラインの単独型(代表者のみガイドラインを利用する手法)の普及を目指す。
以上,簡単ですがご紹介させていただきます。