事例3
かつて、製造業を営んでいたXさんは、75歳。
Xさんには、55歳の妻Bさんのほかに、Bさんとの間に授かった子のCがいます。
また、Xさんには、昔交際していたDさんとの間に授かり、認知した子のEがいます。
Xさんは、自分の死後、B・C・Eが揉めることを確信し、遺言を作成することにしました。
Xさんは、字を書くのが苦手でした。書きたいこともたくさんありました。
そこで、パソコンで遺言を作成することにしました。
遺言を作成した後、最後に、自分の名前を署名し、実印で押印しました。
その後、誰にも見つからないように、へそくりと一緒に保管しました。
Xさんの死後、B・C・Eは揉めることとなりました。
遺言を作成したにもかかわらずなぜ揉めたのか?
検討
1 揉めた理由
・ 遺言が発見できなかった
・ 自筆証書遺言の要件を満たさない無効な遺言であった
2 遺言の種類
・ 自筆証書遺言,公正証書遺言,秘密証書遺言,特別の方式による遺言
・ 一般に使われるのは,①自筆証書遺言と②公正証書遺言
・ どちらも法律で形式が決まっている。
3 自筆証書遺言のリスク
① メリット?
・ 自分が作りたいときに自宅で手軽に作れる。
・ 公正証書の作成手数料がかからない。
② デメリット
・ 形式面のミスから,遺言が無効となるリスクがある。
← 単に無効となるだけではなく,相続人間の感情的対立をあおる結果にも。
・ 形式面のミスはない場合でも,内容が不明確で争いの種になることも。
← 遺言の対象財産の特定が不十分など。
・ 後から内容を変更しようと思った時が面倒
← 判断能力の低下で保管場所が分からなくなることがある。
・ 死後に相続人が発見できない場合がある。
・ 誰かが見つけて捨ててしまう危険性,内容を改変してしまう危険性がある。
・ 死後に,遺言書の検認が必要
4 公正証書遺言のススメ
・ お金はかかるが,形式面・内容面でのミスはない。
・ 原本は公証役場で保管されるので,紛失の危険,発見できない危険性がない
・ 第三者が内容の改変をすることは不可能
・ 死後の検認が不要
・ おもったほど手数料は高くない(遺産総額が5000万円~1億円で4万3000円)
・ 手数料は高くなるが,訪問できない場合には出張もしてくれる(50%加算,日当)
・ 証人が2人必要だが,あてがなければ紹介もしてもらえる。
5 公正証書作成の注意点
・ 公証人は,遺言や相続の相談、争族対策の相談に乗るのが仕事ではない。
・ 依頼された内容どおりの遺言を作るのが仕事。
・ 生前贈与等について問い合わせはないし,遺留分を侵害するような遺言も作ってくれる。
・ 一部遺言も作ってくれる。
・ 結局,紛争になることもある。
・ 事前に,弁護士に相談しておくのが無難。