第1 廃業に関する仮設
先日参加した,中小企業再生支援セミナーでも,再生支援協議会の取り組みとして,再チャレンジ支援(廃業支援)が紹介されていました。
その中で,いくつかの仮説が紹介されていました。
・ 経営者の廃業に寄り添う仕組みがないがゆえに,企業が(望む)廃業を決断できないまま,市場に留まっている可能性があるのではないか。
・ 廃業のタイミングが遅れ,突然破たんすること等により,中には地域経済に悪影響を与えているケースがあるのではないか。
・ 経営者の再度の企業や,従業員の再就職機会を阻害しているのではないか。
・ 廃業の遅れにより企業資産の毀損を促進しているのではないか。
・ 取引先の連鎖倒産や金融機関の財務状況への悪影響を生じさせているのではないか。
これまで,法人や事業主の倒産の場面に多数接してきたものとして,これら仮説はいずれも,的を射ていると思いました。
廃業の遅れは,従業員,取引先,金融機関,地域,経営者本人,全てに影響を与えます。
ただ,廃業を決断することは簡単な事ではありません。
・ 常に自分だけで判断しなければならない状況で,廃業相談に乗ってもらう所がない。
・ 社員の今後のこともあり早期の廃業の決断ができなかった。
・ とにかく資金繰りのことしか考えられない。
第2 廃業の効果
しかし,適切な廃業を行うことができた企業の経営者からは,以下のような声があったそうです。
・ 早期に廃業を決断したため,取引先に優先的に弁済を行うことができた。取引先には,自社以外の信頼できる競業他者を紹介できた。
・ 早期に決断したことで,従業員の再就職先を見つけることができた。
・ 廃業したとしても,知識,仕入れ方法,人脈,失敗からの経験があると前向きにとらえることができている。
・ 事業を継続したまま適正価格で在庫を販売でき,金融機関に対し,破産よりも多くの弁済をすることができた。
時期を逸すると,これら,廃業の効果は期待できません。
弊所にも,時期を逸したため,膨大な債務を負い,個人資産のすべてをつぎ込んだ状態で,相談に来られる経営者の方が非常に多いです。
財産が無いため,廃業のための費用をさらに親族や友人から借りる必要があります。費用が用意できないため,会社も何もかも放置せざるを得ないときもあります。
個人の資産も底をつきているため,廃業後の経済的再生に長期の時間を要するだけでなく,家族(特に就学児童)への影響が甚大で,必ず離婚の話が持ち上がります。
取引先への未払が重なると,経営者自身同じ業界又は隣接業種での再起が不能となりますし,取引先の規模によっては連鎖倒産も引き起こします。
取引先への未払いが多額に上り,また,闇金やそれに近い筋からの借入に頼ったために,厳しい取立てに苦悩する経営者も多数見てきました。
従業員も突然の解雇となるため,従業員の家族が路頭に迷う事例もあります。
適切な時期に廃業を決断することで,従業員,取引先,金融機関,地域,経営者本人,全てに良い影響が生まれます。
難しいことは分かっています。それを承知で言います。
早期廃業が最善の道です。
早期に廃業を決断すれば,上記で指摘したように,従業員を突然解雇することなく再就職先を見つけてあげることができる,取引先への未払もなく競業他者を紹介できる,金融機関にもより多くの弁済ができる,そして,経営者自身も余力を残した状態で廃業することで精神的にも経済的にも早期に再起を図ることができるのです。
第3 経営者自身の再生
この中で,特に私は,経営者にとってのメリットを強く感じます。
早期の廃業は,経営者の再生につながります。
社員のことを考え,家族のことを考え,一生懸命会社を経営してきた経営者だからこそ,再起を図る機会はもってしかるべきだと思います。
経営者には責任があり,経営者の覚悟は常に問われます。
しかし,だからといって,個人資産のすべてをつぎ込み,心身ともにボロボロになってまで経営することまでは求められません。
そこまで頑張る必要はないし,そこまで耐え,その結果廃業の時機を逸することは,経営者の責任を果たしたとは言えないと思うのです。
一生懸命頑張ってきた経営者だからこそ,再生を果たしてほしいと思うのです。
個人の破産者にも言えることですが,廃業は企業の終活として前向きにとらえることが重要であると思います。
第4 具体的手法
一般的には,廃業と言えば,破産手続というイメージが強いと思います。
時機を逸すると,会社のみならず,代表者個人についても,破産手続を選択せざるを得ません。
しかし,早期に廃業の決断ができると,時間的余裕があるため,様々な選択肢があります。
例えば,法人については,破産だけでなく,特定調停(その上での特別清算)という方法による廃業が選択できます。
この方法を採ると,金融機関の同意の下,取引先への返済を優先的に行うことも可能となります。
破産の場合には,按分弁済となるため,金融機関が大口の債権者として大半の配当を受けることになり,取引先への弁済は微々たる額になってしまいます。
代表者個人についても,破産が主流ですが,破産をすると,破産法の定めに従い財産を処分することになるため,99万円を超える資産を保有できず,住宅ローンを支払い続けることで住宅を保有することも認められません。また,破産の事実が信用情報に掲載されるため,破産後10年ほどは新たに借入等ができず,再度の起業にとって大きな壁となります。
他方,早期に決断ができる場合には,特定調停や再生支援協議会の支援を利用することで,経営者保証ガイドラインを用いた債務整理が可能となります。経営者ガイドラインを利用することができれば,インセンティブ資産として99万円を超える資産を保有できる可能性があり,信用情報への掲載もないため再度の起業が可能となります。
これら手法はまだ業界内でも浸透しておらず,手探りの状態ですが,当事務所では積極的に取り組んでいく所存です。
経営者にとって,本当の意味での支援者になりたいと思います。