相続法改正「配偶者居住権の成立要件」

1 配偶者居住権を取得する要件

 配偶者居住権は,①被相続人の配偶者が,②被相続人の財産に属した建物に,③相続開始の時に居住していたときに限り,取得することができます。

 簡単に言えば,配偶者名義の家で,ご夫婦仲睦まじく一緒に暮らしていたような場合です。

 今回は,上記①~③の要件の中身について説明します。

 ちなみに,配偶者居住権の取得には,他にも,遺産分割協議や家庭裁判所の審判といった決められた手続をとる必要がありますが,この点は次回説明します。

 (ところで,被相続人という言葉はあまり馴染みがない言葉かと思いますが,死亡した配偶者のことです。相続される人なので,相続を被ると書いて被相続人と呼ばれます。)

 

2 「被相続人の配偶者が」

 配偶者居住権は,被相続人の生存配偶者が取得できる権利です。

 ですから,相続開始時に,被相続人と恋愛関係にあっただけでは足りないのはもちろん,事実婚であっても認められないものとされています。離婚している場合も,もはや配偶者ではありませんから,認められません。

(余談ですが,法律婚と事実婚にはあくまで婚姻届の届出の有無という形式的な違いしか無いことからすれば,法律婚だけを特別に保護することには疑問が残ります。)

 

3 「被相続人の財産に属した建物に」

 被相続人が所有していた建物ということです。

 ですから,他人所有の建物では配偶者居住権は取得できません。たとえば,被相続人の両親名義の家に住んでいたとか,賃貸物件に住んでいたような場合です。

 また,単独所有でなければいけません。例えば,建物の二分の一を被相続人が,残りを被相続人の親が所有していたような場合にも,配偶者居住権は取得できないことになります。

 

4 「相続開始の時に居住していた」

 相続開始時に,生存配偶者が被相続人と一緒に生活していなければいけません。

 たとえば,離婚はしていないけれど不仲から別居している場合には,一緒に生活していたとは言えませんから,配偶者居住権は取得できません。

 一方で,被相続人が死亡したときに,たまたま旅行等で短期間かつ一時的に家を離れていた場合には,依然として一緒に生活していたと言えるでしょう。

 もっとも,この要件は条文上も解釈の余地を残しており,今後,要件に該当するか微妙なケースが出てくると思われます。

 たとえば,老人ホーム等の施設に入居していた場合はどうでしょうか。重度の認知症で,もと住んでいた家に帰る予定も無いような場合には,もはや被相続人と一緒に生活していたとは言えないでしょう。一方で,家庭の都合で一時的に施設に入居していた場合には,依然として一緒に生活していたと言って良いかもしれません。

 このように,どういった状態であれば一緒に生活していると言えるかは明らかでなく,今後,前例の積み重ねを待つほかないと思われます。

 

5 おわりに

 配偶者居住権を取得するには,上記の要件すべてをみたす必要があります。

 「配偶者居住権の取得を前提に老後の計画を立てていたのに,相続が開始してから要件を満たしてないことわかった」。

 こういった事態に陥らないためにも,自分が配偶者居住権を取得する要件を満たしているのか,きちんと確認しておきたいところです。

(執筆;弁護士藤本浩平)

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