相続法改正「配偶者居住権の成立要件②~遺言~」

1 配偶者居住権の取得に必要な手続的条件

 配偶者居住権の取得には,前回説明したものに加えて,以下の条件を満たす必要があります。

 配偶者居住権は,①相続人による遺産分割協議,②被相続人の遺言,③家庭裁判所の審判,または④死因贈与契約によって,設定することができます。

 今回は,上記の方法のうち,②被相続人の遺言による配偶者居住権の設定について説明します。

 

2 被相続人の意思だけで設定できる

 遺言とは,被相続人が生前に遺産の配分を決めておくことです。残された生存配偶者の老後の生活が心配なときには,遺言で配偶者居住権を設定することが考えられます。

 遺言による方法の特色は,上に挙げた方法の中で唯一,被相続人=遺言者の意思だけで配偶者居住権を設定することができる点です。

 配偶者居住権の取得に反対する相続人がいたとしても,被相続人の意思だけで,生存配偶者は配偶者居住権を取得できるのです(他の方法は、基本的に相続人全員の同意が必要になります)。

 しかしながら,こうした特色のために,次のような注意点があります。

 

3 生存配偶者が配偶者居住権を放棄できるようにしておく必要がある

 まず一点目に,遺言作成から相続開始までの間に状況が変化して,当の生存配偶者自身が,配偶者居住権の取得を望まない可能性があることです。たとえば,一人での自宅の生活よりも老人ホーム等の施設への入手を希望するような場合です。

 そこで,遺言を作成する場合には,生存配偶者が配偶者居住権を放棄できるような内容にすることが望ましいといえます。

 ここで知っておきたいのが,遺言で財産を残す方法には,「遺産分割方法の指定」と「遺贈」という二つの方法があることです。詳細な説明は省きますが,配偶者居住権を放棄できるようにするには,「遺贈」による必要があります。

 ですので,遺言作成時には,「〇〇(生存配偶者)に,以下の建物の配偶者居住権を遺贈する」といったように,「遺贈」であることを明確にした内容にする必要があります。

 

4 遺言に盛り込むべき内容について

 他にも注意すべき点があります。

 まず,配偶者居住権の存続期間に関して定めておくべき場合があることです。配偶者居住権は,原則的に死ぬまで継続するものですから,存続期間を定める必要はありません。

 ですが,相続財産全体との兼ね合いで存続期間の定めを検討するべき場合もあります。

 というのも,遺言は被相続人の意思のみで作成できる一方で,それゆえに相続人間の遺産配分のバランスを欠いてしまう危険があります。

 このような場合,配偶者居住権の存続期間を短く定めることで,遺産配分を調整することが考えられます。配偶者居住権の財産的価値は,存続期間の長短に伴い増減するからです。死ぬまで続く配偶者居住権よりも,10年だけ続く配偶者居住権の方が,価値が低いのです。特に,配偶者居住権の設定が他の相続人の遺留分を侵害してしまうような場合には,こうした存続期間に関する定めを残すことは必要となります。

 次に,配偶者居住権が設定された建物の相続人を明確にすることが望ましいことです。

 配偶者居住権を取得する生存配偶者と、配偶者居住権が設定された建物の所有権を取得する相続人は、以後の生活で密接な関係を有することになります。遺言者としては、生存配偶者と良好な関係の相続人に当該建物を相続させることで,無用なトラブルを避ける配慮をしたいところです。

 

5 遺言による配偶者居住権

 以上のように,遺言による配偶者居住権の設定にあたっては注意すべき点が多くあります。また,配偶者居住権の設定だけでなく,遺言自体が相続トラブルの火種を多く抱えています。

 相続トラブルは,単なる財産的な争いに留まらず,家族仲に決定的な亀裂をもたらすことも少なくありません。安心した余生を過ごすためにも、遺言の作成に悩んだ時は、弁護士や司法書士といった専門家に相談することを薦めます。

(執筆:弁護士藤本浩平)

トップへ戻る

0120-483-026 問い合わせバナー