先日、「会社の資金繰りについて」と題して記事を投稿させていただきました。
前回の投稿では、資金繰りの概要についてお話した後、業種による資金繰りの違いについても紹介させていただきました。
そこで今回は、資金繰りが悪化する要因について、お話したいと思います。
いずれについても、コロナ禍では注意が必要ですので、是非ご覧いただければ幸いです。
第3 資金繰りが悪化する要因
1 慢性的な赤字
まずは、慢性的な赤字です。
当然のことですが、売上の減少が続くと、売上に比例しない固定費の負担が重くなり、資金繰りが悪化します。
利益は全ての源泉です。
売上の減少に伴い経常利益がマイナスとなった場合には、必ず現状分析をして課題を見つけ、経営を改善する必要があります。
2 滞留在庫(不良在庫)
滞留在庫というのは、仕入れた商品や材料、あるいは完成した製品が売れずに、会社に売れ残った場合の在庫のこと総称したものです。
まず、当然のことですが、材料等を購入すれば、購入した分だけ資金は出ていきますので、在庫が売れなければ、資金は減ったままであり、資金繰りが悪化します。
また、勘違いしやすい点が、在庫と費用の関係です。
在庫は当期に使った分しか費用になりません。
例えば、期末になって、社内は在庫の山だけれども、今年はたくさん在庫を仕入れて代金を支払っていて、その分経費がかさんでいるから、利益は少なめだろうと考えたら、それは間違いです。当期に使った分しか費用になりませんので、この点を誤解していると、想定しているよりも多くの利益が出てしまい、それに見合った税金が課せられることになります。
現在、コロナ禍によって、サプライチェーンが大きく停滞しており、材料不足が大きな課題になっています。
仕事はあるのに材料がなく、製品が作れないという企業が多数あります。
そうした企業は、機会損失を避けたいという気持ちが強く、在庫を多めに抱えたいと思うでしょう。
もちろん、それは、一つの経営判断であり、適切な判断だと思います。
ただ、仕入れた在庫が滞留すると、資金繰りの悪化を招きます。
この点をしっかり念頭に置いた上で、自社における適正在庫はどの程度かを常に考えて、平常時よりも多くの在庫を仕入れる判断をした場合には、いつも以上に資金繰りの把握を徹底することが重要です。
3 滞留債権
次に、滞留債権です。
滞留債権とは、売掛金の回収時期が延びている債権、あるいは回収が困難になっている債権のことを言います。
これも、コロナ禍で急増しています。
滞留債権が増えると、売上が上がっているけれども、回収が出来ないため資金が増えず、資金繰りが悪化します。
また、滞留債権の怖いところは、売上が立っているということです。
売上が立っているため、決算期には売上高に含まれ、最終的に当期利益を構成します。
つまり、資金は入ってきていないのに、利益が出てしまい、さらに、それに応じた税金が課されるということになります。
さらに、滞留債権の場合は、売上や利益が伸びているため、経営者が安心してしまい、余分な経費や投資を行うなど、資金を減らす方向に判断が傾きやすいといえます。
このように、滞留債権は、滞留在庫以上に資金繰りに与える影響が大きいので、注意が必要です。
日頃から、債権の回収状況に気を配っておく必要があります。
4 設備投資の失敗
設備投資の失敗は、資金繰りを大きく悪化させます。
当事務所は倒産事件を多く扱っていますが、倒産原因を分析していくと、いずれの企業も過去に大なり小なり投資の失敗があります。
それだけ、投資の失敗は起こりやすく、また、失敗による影響が大きいといえます。
コロナ禍を受けて、既存の事業では事業継続は難しいと判断し、急いで、設備投資や新規事業への進出を進める企業もあります。
しかし、投資計画を立てることなく見切り発車で投資を行うと、却って、企業の寿命を縮めることにもなりかねません。
そこで、以下においては、設備投資に当たり重要なポイントをいくつかご紹介したいと思います。
① 投資による将来収益を見極める
最も重要なのが、将来収益を見極めることです。
⑴設備投資をした場合に、いつから、どの程度売上が増加するのか。
⑵設備投資をした場合に、いつから、どの程度費用が増加するのか。
⑶その結果、設備投資をした場合に、いつから、どの程度利益が増加するのか。
これらを見極める必要があり、具体的には、投資後の翌年から最低3期程度の(変動)損益計算書を作成し、投資効果を分析する必要があります。
まず、⑴売上予測については、確実な予測は難しいと思いますが、コロナ禍を考慮し保守的に予測するのが望ましいといえます。
取引先からの増産依頼等に対応する場合には、取引先との契約内容を精査し、増産を一定期間保証してもらえるような内容にする必要があります。
他方、自社の判断で売上増を見込んで設備投資する場合には、外部環境・内部環境をしっかり分析し、投資による売上増が本当に見込めるのかを分析する必要があります。
次に、⑵費用予測については、投資をした場合にどのような経費が発生するのかを網羅的に洗い出し、分析する必要があります。
既存設備の廃棄処分費用、移転費用、設置に要する特殊工事、各種税金、修繕費、メンテンナス費、人件費、借入れの利息など、多岐に上ります。
現在のコロナ禍では売上予測が難しい状況ですので、少なくとも費用については精度の高い予測を行うことが肝要です。
② 投資による資金繰りを見極める
次に、収益予測ができたら、投資に伴う資金繰りを見極める必要があります。
大きく分けて、投資年度と翌年以降に大きく分けることができます。
まず、投資年度についてですが、投資時にどの程度のキャッシュが出ていくのか、そのキャッシュをどのように賄うのかです。
全額自己資金で賄う場合は、資産状況に照らしてそれほど投資額が大きくない場合だと思いますが、とはいえ投資時に大きくキャッシュが減少するので、その後の資金繰り把握は重要です。
また、補助金で投資資金の一部を賄う場合は、先に自己資金(あるいは借入金)で投資する必要がありますので、投資から補助金が入金されるまでの数カ月間の間、資金繰りが滞ることがないかしっかり把握する必要があります。
次に、投資の翌年以降についてですが、投資資金を借入れによって賄う場合は、特に重要です。
先程述べた(変動)損益計算書を土台にして、簡単なキャッシュフロー計画を作成しておくのがベターです。
③ 投資と借入れの関係に注意する
投資資金を借入れによって賄うことは多いと思いますが、投資と借入れの間には重要な関係があります。
具体的に紹介すると、まず、投資設備の法定耐用年数よりも、返済年数が短いと、将来、資金繰りを圧迫することになります。
また、投資回収年数(=投資額÷1年あたりの投資による増加キャッシュフロー)よりも、返済年数が短いと、同じく、資金繰りを圧迫する可能性があります。
理屈を説明すると長くなりますのでここでは省略しますが、借入れで賄う際は、上記のような返済計画にならないよう注意したいところです。
④ まとめ
少し長くなりましたので、この辺りでまとめたいと思います。
冒頭述べましたように、設備投資の失敗は、資金繰りを大きく悪化させ、成長を後退させるだけでなく、その規模によっては事業の存続に影響を及ぼすこともあります。
コロナ禍の現在、非常に難しい経営判断を迫られていると思いますが、拙速に投資を進めるのではなく、外部の専門家を利用するなどして必ず投資計画を策定してから、投資を実行していくことが重要です。
5 過剰債務
次に、過剰債務についてです。
借入の返済は、金融機関との約定に基づいて毎月行うものであり、返済額は収益と関連性がありません。
そのため、収益が悪化している状況で、従来通りの返済を継続していると、知らぬ間に資金繰りを圧迫することになります。
運転資本の負担が小さい業態でも、借入れが大きい場合には、資金繰り表を作成し、早め早めに資金不足を予測し、その手当をしておくことが重要です。
事前に予測ができていれば、金融機関とも相談をしながら、返済計画を見直すこともできます。
6 事業拡大や事業転換に伴う影響
最後に、事業拡大と事業転換に伴う影響です。
事業拡大時に、なぜ、資金繰りが悪化するのか不思議に思う方がいるかもしれません。
それは、運転資本が増加するからです。
事業拡大時、特に、売上拡大時は、支払が先に来て、入金がその後にくる業種の場合は、運転資本が急激に増加するため、一時的に資金が枯渇しやすいのです。
事業拡大時に、資金繰りを把握していないために、資金が枯渇してしまい、次の仕入れができず、成長が止まってしまうこともあるので、注意したいところです。
また、従来の製品群とは異なる別の製品群を取り扱うなど、多角化によって事業を拡大を図る場合には、先ほど紹介した滞留在庫が増加するリスクがありますので、同じく資金繰りに注意したいところです。
最後に、業態転換に伴う影響です。
こちらも、運転資本が絡んでいます。
以前ご紹介したように、運転資本の負担は業種業態によって大きく異なります。
これまでと異なる業種業態に業態転換する場合には、事前に、進出予定の業態に関する運転資本の特徴やポイントを事前に把握しておくことが必要です。
この辺りは、創業者であれば自然に身についていると思いますが、後継者の方で、特に承継後資金繰りに困った経験がない方は注意が必要です。
以上、今回は、資金繰りが悪化する要因についてご紹介させていただきました。
コロナ禍で、資金繰りが悪化する要因は飛躍的に増加しています。
今回の記事が少しでも皆様の経営に役立てば幸いです。