親族内承継の場合には、後継者に株式を集中させることが重要と紹介しました。
ただ、単に、後継者に株式全部を生前贈与し、あるいは遺言で株式を相続させるだけでは不十分でした。
生前贈与や相続には、他の相続人の遺留分がつきものです。
そのため、遺留分の対策をしていないと、結局、後継者が困ることになるのです。
具体的な対策方法としては、生命保険の加入,10年以上前の生前贈与、新たな制度である除外合意や固定合意の活用がありました。
ここまでが前回のお話しでした。
ただ、以上の方法には、それぞれデメリットやリスクがあります。
生命保険については、相続財産の6割を超えると生命保険金それ自体が遺留分の基礎財産に算入され,遺留分額を底上げする要因となり得ます。
また、10年以上前の生前贈与についても、現経営者の死亡時期は予測困難ですし、株式を早期に贈与することは後継者が未成熟の間に会社の支配権を譲ることになるので、未熟な後継者の暴走をとめることが困難となります。
さらに、新たな制度については、生前に遺留分権利者全員と合意する必要があり、それ自体がハードルといえます。
1 遺留分対策としての種類株式の活用
そこで、考えられるのが種類株式の活用です。
そもそも、株式を集中させることが重要といわれるのは、原則として株式には議決権があるためでした。
そうすると、議決権がない株式であれば、後継者以外の相続人が取得したところで、経営には影響がないと言えます。
具体的には、生前に、定款を変更して、議決権なき株式(=議決権制限種類株式)というものを作って、それを後継者以外の相続人に与え、議決権を有する通常の株式は、後継者に取得させるのです(なお、非公開会社の場合には属人的株式という制度を使ってより簡易に同様の効果を得ることができます。)
この方法をとれば、後継者も後継者以外の相続人も、現経営者から株式を生前贈与されることになるので、現経営者の死亡後に遺留分の問題は生じにくくなると言えます。
なお、議決権なき株式を議決権のある普通株式と同じ資産価値と考えるのか,異なると考えるのかという問題が残り、この点で紛争になる可能性は否定できません。
また、上記の議決権制限種類株式と同様に株式の集中を狙ったものとして、取得条項付種類株式や、全部取得条項付種類株式といったものもあります。
2 後継者を監督するための種類株式の活用
さらには、先代経営者が後継者に事業承継した後も、後継者を監督し暴走を食い止めることを狙った種類株式として、拒否権付種類株式や、役員選任種類株式などもあります。
ちなみに、特例事業承継税制を使うためには、生前、後継者に対し、後継者が既に保有している株式数と併せて3分の2に達するまで株式を一括で譲渡する必要があります。
税制を使いたいけれども、まだ後継者が未成熟で、支配権を与えるのは不安があるという場合には、上記の拒否権付種類株式が有効です。
詳細は割愛しますが、これを先代経営者が保有していれば、後継者の暴走を食い止めることができます。
ただ,非常に強力な株式ですので、先代経営者が保有し続けるのは望ましくなく、生前はもちろんのこと判断能力がまだあるうちに消却しておくのが望ましいと言えます。