相続トラブルで散見される事例①~遺産の管理費用~

人がなくなると相続が発生しますが,遺言がない場合には,残された遺産をどのように分けるのかについて,話し合いをする必要があります。

この話し合いを,遺産分割協議と言います。

ただ,この話し合いは,しばしば難航します。

一旦話がこじれると,話がまとまるまでに,1年以上,場合によっては数年かかることもあります。

そんな事案でよく見かけるのが,遺産の管理費用に関する争いです。

 

1 具体例①:屋根瓦の補修工事

例えば,父親がなくなり,子ども2人が相続しました。母親はすでに他界しています。

遺産として父が居住していた自宅建物がありました。

子ども2人は,それぞれ自宅を持っていたので,遺産である自宅建物は空き家のままでした。

遺産分割協議がなかなかまとまらず,父親が亡くなってから1周忌を迎えようとしています。

そんな時,大型台風で,遺産である自宅建物の瓦が飛び,雨漏りが発生しました。

近くに住んでいた弟は,何とかしなければと思い,業者に屋根の補修工事をお願いしました。

その費用は,200万円かかりましたが,一旦は,弟が自ら業者に支払をしました。

この場合に,弟としては,どうすればいいのでしょうか。

 

弟としては,まず,遺産分割協議や遺産分割調停の中で,費用の清算を求めることになります。

ただ,兄が色々理由を付けて費用の負担を拒むことがあります。

その場合には,弟としては,兄を被告として,相続分に応じた費用の負担を求めて裁判をすることになります。

別途,裁判をする必要があるのです。

請求の法的根拠としては,①共有物に関する民法253条1項を根拠とする請求,②事務管理に基づく費用償還請求,③不当利得に基づく返還請求の3つがあり得ます。

 

2 具体例②:補修工事のついでに増改築工事

先程の事例で,例えば,弟が屋根の補修工事をするついでに,兄に相談せず勝手に,屋根を高級な仕上げにし,また雨漏りした室内をリフォームしたような場合はどうでしょうか。

弟としては,良かれと思ってやりました。

 

この場合,弟が兄に対して請求できるのは,あくまでも,補修工事の費用についてのみで,それを超える部分については認められないのが一般的です。

相続発生から遺産分割協議がまとまるまでは,遺産は相続人が共同で所有しています(共有)。

そして,共有物について,その価値を維持保存する行為(保存行為)は,各相続人が単独で行えます(民法252条ただし書)。

しかし,共有物を利用又は改良する行為(管理行為)は,相続分の過半数で意思決定を行う必要があります(民法252条本文)。

また,共有物の変更行為は,相続人全員の同意が必要となります(251条)。

 

今回の事例で言うと,補修工事は保存行為に該当するので,弟が自分の判断で行うことができます。

しかし,屋根を高級な仕上げにし,室内をリフォームする工事は,管理行為に該当すると解されますので,相続分の過半数で意思決定を行う必要があります。

そして,兄と弟の2人が相続人の場合は,弟は2分の1の相続分しかもっていないので,半数を超える(過半数)持分はなく,勝手に工事を行うことはできないことになります。

このため,弟は,兄に対し,補修工事を超える工事について請求したとしても,過半数の同意なく勝手にしたこととして,費用負担の請求が棄却されることになるのです。

 

ただし,例外があります。

それは,有益費償還請求権というものです。

弟が屋根を高級な仕上げにしたことで,遺産である自宅建物の価値が増加し,その増加が現存していると言える場合には,費用の負担を求めることが可能です。

ただし,いくら増加したのか,増加が現存しているのかについて,立証する必要があり,その立証のハードルは低くありません。

他方,室内のリフォーム工事については,そもそも有益費に該当しない可能性がありますので,価値が現存しているとしても費用負担を求めることは難しい場合があります。

 

3 具体例③:一人の相続人が無償で利用

具体例①の事例の場合で,例えば,父の生前から,弟が,遺産である自宅建物に父と一緒に二人で住んでいて,父の死後も住み続けていたような場合はどうでしょうか。

この場合に,弟は,遺産である自宅建物の補修工事の費用の負担を兄に求めることはできるでしょうか。

また,台風による被害はなく,固定資産税を払い続けていたような場合はどうでしょうか。

 

この場合には,係った費用がどのような費用によって結論が分かれます。

まず,前提として,弟が費用を負担したことは間違いないのですが,反面,弟は遺産に一人で居住し居住の利益を得ています

そのため,弟の兄に対する工事費用の負担の請求を一律に認めると,不公平です。

そこで,弟が遺産である自宅建物に居住する行為を,使用貸借であると捉え,通常の必要費については弟に負担させ(民法595条1項),それ以外については共同で負担すると考えます。

本件では,固定資産税は通常の必要費として弟が負担しなければならないでしょうが,台風被害の修繕費用は通常の必要費には該当しない可能性があり,兄に対して相続分に応じて負担を求めることができる可能性があります。

 

似たような事例として,遺産が賃貸マンションの場合で,弟がマンションの賃料を受け取りつつ,兄に対して,修繕費用やマンションの固定資産税を求めてきたような場合はどうでしょうか。

この場合も同じで,弟は賃料を受け取っているので,それを考慮しなければなりません。

具体的には,弟が受け取っている賃料から,弟が支払った修繕費用や固定資産税を控除して,その残額を相続分に応じて分けるのが一般的です。

 

4 遺産分割協議は早めにしよう

相続発生から,遺産分割協議の成立までの時間が長くなれば長くなるほど,遺産に関して相続人が負担する費用が多くなります。

不動産だけでも,固定資産税,火災保険料,マンション管理費,庭の剪定費用,様々な管理費用などはもちろん,今回の事例のように修繕費用が掛かったりすることもあります。

そして,こうした費用の負担については,費用を負担した相続人は当然他の相続人に負担を求めたいと思います。

しかし,他の相続人は,自身が関与していないため,費用負担に難色を示すことがあります。

費用の額が少なければまだ解決の余地はあるのですが,年数がたち費用の額が大きくなると,問題はより大きくなるのです。

だからこそ,相続発生から,できるだけ早い時期に遺産分割協議を成立させるべきといえます。

ただし,専門家のアドバイスを受け,知識を持った上で,協議に臨みましょう。

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