相続法改正「遺産分割前でも預貯金の払い戻しができる!」

今回の民法の改正で、遺産分割前でも遺産である預貯金の払い戻しが一定限度で可能となりました

 

遺産分割という言葉があるように、遺言がない場合についてのお話です。

遺言がある場合で、遺産である預貯金についての相続分の指定等がある場合には、適用はありません。

 

具体的に、どのようなことが可能になったのか、説明したいと思います。

 

〜事例〜

・あなたの妻がなくなりました。

・法定相続人は、夫のあなた、お子さんの2人です。

・遺言はありません。

・遺産は、A銀行の普通預金1000万円だけです。

・なお、お子さんは、これまで何かと故人に金の無心をしていて、生前に、1000万円を超える金銭援助を受けていました。

 

以上の事例を前提に、説明します。

 

この事例の場合、改正前であれば、遺産である銀行預金を出金するには、銀行実務の影響もあり、以下の2つの方法しかありませんでした

  • 遺産分割協議を行い、協議の結果をまとめた遺産分割協議書を銀行に提出する方法
  • 遺産分割協議をする前に、相続人全員で話し合って、相続人の代表者を決め、当該代表者に預金の解約又は出金の権限を与える書面を銀行に提出する方法

以上です。

 

この2つの方法は、いずれも、相続人間で話し合いをして、話がまとまらないといけないのです。

親子であれば話はまとまりやすいかもしれませんが、相続人が兄弟のみというケースでは、協議が難航し、一向に話がまとまらないということは、頻繁にあります。

 

そして、改正により、この状況が変わることになります

 

具体的には、相続人は、預金について、相続開始時における当該口座の預金残高の3分の1に法定相続分の割合を乗じた額で、かつ、一つの金融機関あたり150万円の範囲内で、単独行使できることになりました(909条の2前段)。

 

事例を前提に説明します。

 

今回の事例ですと、遺産である預金は、A銀行の普通預金1000万円のみです。

出金できる額を計算しますと、相続開始時(死亡時)における当該口座の預金残高1000万円の3分の1である333万円に法定相続分2分の1を乗じた額(=166万5000円)で、かつ、一つの金融機関あたり150万円の範囲内ですので、出金できる額は150万円ということになります。

 

預金が、A銀行に200万円、B銀行に300万円、C銀行に500万円あった場合は、A銀行から33万円、B銀行から50万円、C銀行から83万円を出金できることになります。

 

上記出金は、各相続人が、他の相続人と協議することなく、単独で行使することができます。

 

相続人間の協議が難航しそうな場合でも、一定の限度で、出金できるようになったことは大きな変更と言えます

相続人に葬儀費用を捻出するだけの預金がない場合、相続人が生活に困窮している場合や、相続税の納税資金が足りない場合事業資金が足りない場合など、様々な場面において役立つ法改正と言えます。

 

ただ、悩ましいのは、具体的相続分がない相続人でも、上記の限度であれば出金できるということです。

 

先ほどの事例では、お子さんは、生前に、故人から1000万円を超える贈与を受けていました。そのため、遺産である1000万円の預金についての具体的相続分は、ありません。

 

しかし、このように具体的相続分のないお子さんもまた、預金の出金ができてしまうのです。

もちろん、お子さんには、後から清算義務があるので、結局は返還しなければならないのですが、出金した預金を使ってしまった場合はもちろん、返還を実現することは容易ではありません。

 

今回のケースは、親子の話ですので、「仕方ないな」と大目に見ることもできるかもしれませんが、兄弟間で感情面で対立が激化している場合などには、新たな火種となることもあります。

 

他の相続人としては、具体的相続分がない相続人が預金を出金する前に、家庭裁判所に対して、審判前の保全処分を申し立てて、預金の出金を禁止することが考えられます

 

最後に、関連する法律を掲載しておきます。

気になった方は、いつでもご相談ください!!

 

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改正民法909条の2

 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生活費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

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