事業承継のイロハ「株式の集中と遺留分の深い関係」

株式には、通常、議決権があります。

そのため、後継者が十分な株式数を保有していないと、自分の思うように経営をすることができません。

最低でも、発行済株式総数の3分の2は保有したいところです。

そのためにも、事業承継をする際には、後継者に株式を集中させることが重要となります。

ただ、株式を集中させることは、単に株式を後継者に贈与又は相続させれば済むような単純な問題ではなく、様々な考慮が必要となります。

 

1 生前贈与又は遺言の作成を!

まず、大前提ですが、現経営者が自分の保有している株式について、後継者に生前贈与することなく、また、遺言によって後継者に相続させることもなかった場合には、大変なことになります。

この場合、現経営者の株式は、相続財産となりますので、法定相続人間の遺産分割の対象となります。

もし、兄弟間で後継者争いが勃発すれば、株主総会を開催することができず、企業活動が事実上停止してしまう可能性もあります。

また、後継者が決まっている場合でも、株式以外に十分な資産がない場合には、後継者は大変な思いをします。

例えば、株式しか、目ぼしい遺産がないような場合には、後継者が株式を集中させるために他の相続人に多額の代償金を支払わなければなりません

もし、後継者が、代償金を支払うだけの資産を持っていなければ、株式を他の相続人も取得することになり、その結果、株式を集中させることができず、他の相続人の顔色を伺いながら経営をしなければならなくなります。

したがって、大前提として、現経営者が保有している株式については、後継者に生前贈与しておくか、または、後継者に株式全部を相続させる内容の遺言を作成しておくことが重要です。

 

2 遺留分にも気を配る!

次に、考えなければならないのが遺留分です。

遺留分というのは、遺言によっても奪うことのできない法定相続人の権利です。

 

現経営者が後継者に株式を生前贈与し、または遺言で相続させたとします。

その場合に、株式価値や株式以外の相続財産の価値によっては、後継者以外の相続人の遺留分を侵害してしまう可能性があるのです。

 

例えば、現経営者Aが、生前に、株式全部を後継者である長男Xに贈与したとします。

Aには、X以外に二男Yと三男Zがいたとします(配偶者のBはすでに他界しているとします。)。

Aが死亡したとき、Aには目ぼしい財産がありませんでした。

この場合、YやZは、長男Xに対して、自己の遺留分が侵害されたとして、遺留分減殺請求をすることができます。

具体的には,相続開始時(死亡時)の株式価値が1億円であったとすると、YやZは、Xに対し、各自約1700万円の支払を求めることができるのです。

これが遺留分という制度です。

なお、民法が改正されるまでは、遺留分減殺請求をされると株式が共有状態になるとされていましたが、改正により、遺留分減殺請求権が金銭債権になったので、株式は共有にはならず、遺留分侵害額を金銭で支払えば足りることになりました。

とはいっても、金銭で支払わなければならないので、後継者に遺留分侵害額を支払うだけの資力がなければ、面倒なことになります。

このように、後継者以外の相続人には遺留分がありますので、単に後継者に株式を承継させるだけでなく、遺留分にも配慮しておく必要があります。

 

① 生命保険の加入

具体的方法としては、例えば、現経営者が、後継者を受取人とする生命保険に加入しておく方法があります。

この方法であれば、後継者自身が遺留分額の支払資金を用意せずとも、現経営者の死亡保険金で遺留分額を支払うことができるので安心です。

ただ、保険金額が遺産総額の6割を超えるような場合には、遺留分の基礎財産に加算され、遺留分額が保険金の額だけ増額される可能性があるので注意が必要です。

 

② 10年以上前の生前贈与

また、今回の民法改正で、遺留分について大きな改正が行われました。

一つは、先ほど紹介した、遺留分減殺請求権が金銭債権になったことです。

もう一つは、遺留分算定の対象となる生前贈与を相続開始前10年間の贈与に限ったことです。

これまでは、親族後継者に株式を生前贈与する場合、生前に贈与された株式は全て遺留分の算定の対象とされていました。

しかし、改正により、相続開始前10年間の贈与に限定されることになったので、相続開始の10年以上前に株式全部を後継者に贈与しておけば、株式に関しては、遺留分の問題は生じない可能性が高いと言えます(※改正法1044条1項第2文「当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知って贈与したとき」には期間制限が除外されるので可能性がゼロとは言えません。)

このように、株式を早期に生前贈与しておくことは、それ自体が、遺留分の対策となるのです。

 

③ 新制度の活用

さらに、遺留分対策として、「遺留分に関する民法の特例」というものができました。

具体的には、2つの制度ができました。

まずは、除外合意という制度です。

これは、先代経営者の生前に、経済産業大臣の確認を受けた後継者が、遺留分権利者全員との合意内容について家庭裁判所の許可を受けることで、生前贈与された株式等について、遺留分算定の基礎財産から除外できるという制度です。

もう一つは、固定合意という制度です。

これは、従来どおり生前贈与された株式等を遺留分算定の基礎財産に算入するものの、生前贈与の株式の価額を合意時の評価額で予め固定する制度です。

生前贈与後に株式価値が後継者の貢献により上昇した場合に、その値上がり分を算定対象から除外することになります。

ただ、この2つの制度は、いずれも、現経営者の生前に遺留分権利者全員と合意することが必要となります。

ここのハードルをクリア―できるのであれば、非常に有効な遺留分対策といえます。

 

④ 種類株式の活用

以上の3つの対策とは少し発想が違いますが、種類株式を活用する方法もあります。

こちらについては、別の機会に改めて紹介したいと思います。

トップへ戻る

0120-483-026 問い合わせバナー